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東京地方裁判所 昭和45年(ホ)1001号 決定

被審人 日本航空株式会社

主文

被審人を過料二〇〇万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

一、本件記録のほか、当庁昭和四四年(行ウ)第一五五号事件記録、同昭和四四年(行ク)第五三号事件記録および同昭和四四年(行ク)第六九号事件記録によれば、被審人は、昭和四〇年五月七日その従業員で航空士であつた小嵜誠司、航空機関士であつた田村啓介、副操縦士であつた藤田日出男・丸山巌の四名(いずれも当時中央運航所乗員部所属)に対し違法争議をしたとの理由により懲戒解雇をしたところ、右四名らから被審人を被申立人として東京都地方労働委員会に右懲戒解雇は不当労働行為であるとして救済命令の申立がなされ(都労委昭和四一年(不)第二〇号不当労働行為申立事件)、昭和四二年八月二二日同委員会から「被申立人は、申立人小嵜、同田村、同藤田、同丸山に対し、次の措置を含め昭和四〇年五月七日以降同人らが懲戒解雇されなかつたと同様の状態に回復させなければならない。

(1)  同人らを原職に復帰させること

(2)  同人らの技能を回復させるために必要な訓練を行うこと

(3)  同人らに対し、同人らが解雇の翌日から復帰までの間に受けるはずであつた賃金相当額を支払うこと」

との命令を受けたこと、そこで、被審人は中央労働委員会に再審査申立をしたが(中労委昭和四二年(不再)第五三号事件)昭和四四年六月一八日同委員会から「再審査申立を棄却する」旨の命令を受けたので、同年八月一日同委員会を被告として当裁判所に再審査命令の取消を求める行政訴訟を提起したが(当庁昭和四四年(行ウ)第一五五号救済命令取消請求事件)、一方同年九月六日中央労働委員会は被審人を被申立人として緊急命令の申立をし(当庁昭和四四年(行ク)第五三号緊急命令申立事件)、当裁判所は同年九月三〇日、「被申立人は、被申立人を原告とし、申立人を被告とする当庁昭和四四年(行ウ)第一五五号救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が中労委昭和四二年(不再)第五三号事件において維持した東京都労働委員会の昭和四二年八月二二日付命令(都労委昭和四一年(不)第二〇号不当労働行為申立事件)に従い、小嵜誠司、田村啓介、藤田日出男および丸山巌らを昭和四〇年五月七日当時の原職に復帰させ、同人らの技能を回復させるために必要な訓練を行い、昭和四〇年五月八日以降原職に復帰するまでの間に同人らが受けるはずであつた賃金相当額を支払わねばならない。」旨の決定をなし、右決定は同年一〇月一日被審人に送達されたこと(なおその後被審人は同月二五日当裁判所に右緊急命令変更の申立をしたが((当庁昭和四四年(行ク)第六九号事件))当裁判所から「本件申立を却下する。」旨の決定を受けた)、しかるに被審人は同月一八日小嵜ら四名に対して同日より三週間以内に同人らの正式な所属部課を決定するのでそれまでの間仮配属として同月一日付をもつて人事部付とする一方、自宅待機を命じ、同年一一月一〇日小嵜を運航技術部運航技術第二課に、田村を検査部検査課に、藤田および丸山を運航訓練部運航訓練技術課に配属せしめたに過ぎず前記四名の配属先は同人らが懲戒解雇された昭和四〇年五月七日当時の原職たる中央運航所乗員部(昭和四四年七月一日被審人会社の機構改革により現在は運航乗員部と名称変更)ではなく、又右原職復帰に必要な技能を回復させるための訓練も行つておらず、当裁判所が先になした本件緊急命令中少くとも右の点に関しては、同命令送達の日以降現在に至るまで未だ履行していないことが認められる。

二、もつとも被審人は、本件緊急命令の不履行なかんづく小嵜ら四名の技能を回復させるために必要な訓練を行つていない理由として、実機を使用しての飛行訓練は非常緊急降下(Emergency Descent)をはじめ想像を絶する程過酷なものであり、瞬時の操作の誤りも直ちに悲惨な事故に直結するだけに、これを実施するには教官と訓練生が文字どおり一体となり完全な相互連繋を維持することが不可欠であることから、被審人は特に訓練生の情緒の安定性につき留意しているところ、小嵜ら四名は現在なお解雇事件の当事者として被審人と係争中であるなどの点からして、同人らに右の如き情緒安定性を期し難く、又多くの教官達にも生命を賭して右四名に訓練を施すことに強い不安と反発があり、要するにこのような状況の下に被審人が業務命令をもつてこれら教官に右四名の訓練を命じたとしても、前記の如き危険な訓練を支えるべき教官と訓練生との相互連繋の基礎たる信頼を欠く為、訓練の安全に到底確信を持てないからに他ならない旨主張するが、飛行訓練の危険性および事故を避ける為の教官と訓練生との相互連繋の必要性は推認するに難くないにしても、右小嵜ら四名に対する懲戒解雇は、前記のとおり、同人らにおいて違法な争議をなしたとしてなされたものであつてその乗務員としての技倆ないしは適格性の欠如を理由とするものでない以上、現に右解雇をめぐつて被審人と係争中であるなどの点をもつて情緒安定性を欠くものとみなし、又は教官達の不安・反発を理由に訓練を拒むことは、本件緊急命令を履行しないことにつき正当な理由があるとはなし得ないものというべきである。

三、そうすると被審人の所為は労働組合法第三二条に該当するから、諸般の事情を考慮のうえ、同条所定の過料金額の範囲内において被審人を過料二〇〇万円に処することとし、手続費用の負担につき非訟事件手続法第二〇七条第四項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 兼築義春 豊島利夫 神原夏樹)

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